ヒキタマリ / 疋田 万理
10 min readNov 30, 2020
Photo by Tim Mossholder

Black Lives Matterの盛り上がりと共に、「アジア人の差別も考えよう」といった声が国内のSNS上で上がった。実際に私にそういった意見を伝えてくれた知人もいるし、「この問題はまず黒人の人たちにフォーカスすべき。アジア人への差別と混ぜるべきではない」と話してくれた知人もいた。そして、「Black Lives Matterは『白人差別』だと思う」と、話してくれた知人もいた。ここではそれぞれの人種や国籍には触れない。

ピューリサーチによると、人種やジェンダーの不公平性に対するアメリカ国内の有権者の考えは、2016年のヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏の大統領選の時より、2020年に差を広げているという。

https://www.pewresearch.org/politics/2020/09/10/voters-attitudes-about-race-and-gender-are-even-more-divided-than-in-2016/

左のグラフは「白人は黒人が得ることのできない、かなり優位な社会的恩恵を受けている」に対して、「はい」と答えた率(%)である。

トランプ支持者にほぼ変化はなく、約5%の有権者が「そう思う」と感じる結果となった。ヒラリー支持者 40%、そしてバイデン支持者は約60%もの有権者がそう感じていた。5%と60%、かなりの差だ。

そして右のグラフは「アメリカにおいて、黒人でいることは、白人として生きるよりもかなり困難である」に対して「はい」と答えた率(%)だ。

バイデン氏を支持するうちの、74%もの有権者が同意した。一方で、トランプ支持者は11%から9%に、むしろ減少していた。Black Lives Matterの大きなデモがあった後でも「困難である」と感じた人は9%となった。

74%と9%ー バイデン支持者とトランプ支持者の間での『人種差別』に対する考えの違いは、これほどに開いているのだ。

Photo by Unseen Histories

ここで、トランプ氏を支持する有権者である、私の知人の言葉を紹介したい。彼はアラバマ州出身で、今はサンフランシスコに住んでいる。彼は普段からFacebookにトランプ氏の記事をシェアしたり、政治に関して熱いメッセージを載せている。直接、トランプ氏を支持する理由を聞いた。

I grew up in a small town in Alabama, very poor. So, I really sympathize with the average American in small towns. That and China are the two big reasons I support Trump. “Land of the free, home of the brave”. That is another reason I am very worried about where things are going. Democrats seem to be wanting to take away so many freedoms. COVID restrictions, gun restrictions, they’re now okay with censorship etc. Also, I believe we need to be an America First nation that focuses on the betterment of our citizens lives instead of global corporations. Which doesn’t mean we don’t care or help others, but we focus on our own citizens instead of participating in the rise of China.

僕はアラバマ州の小さな町で育った。貧乏な暮らしだった。だから、小さな町で暮らす平均的なアメリカ人には、とても共感するんだ。それと、中国に対するアメリカの姿勢、この2つが僕がトランプ氏を支持する理由だよ。『自由な者が生きる地、勇敢な者が帰る場所』これがモットーかな。
それで、最近の流れはすごく危惧している。民主党は多くの『自由』を奪おうとしているように感じるんだ。コロナウイルスのための規制とか、銃の規制とか。そして最近は(SNSなども)検閲が増えてきて、それを許すような動きも出てきている。アメリカは「自国第一」として、国内の市民の生活をよくすることに集中すべきなんだ。他の国との強調よりもね。他の人を助けたくないわけじゃない、ただ中国の台頭に合わせて仲良くするよりも、まずは自分たちの国を、国民を大事にすべきだと思うんだ。

彼とのメッセージは今日(11/30)まで続き、日本でもトランプ支持者のデモが起きていること、トランプ氏は法廷で勝ち、また大統領としてアメリカを守ってくれること、そしてバイデン氏に投票した有権者や関係者たちの不正が暴かれること、を熱意を持って教えてくれた。

Photo by Aubrey Hicks

もう一度考えたい。

保守派とリベラル派の分断、なぜ違いが生まれるのか?

私たちは別々の場所に生まれ、別々の家庭環境と教育を受けて育ち、有権者になるまでの間に、倫理観と価値観を形成する。

ピューリサーチが提供している、この政治的価値観の診断テストを試してみて欲しい。

大企業は利益を出しすぎているか?

他国との強調により平和を求めることよりも、兵役など防衛力により他国を牽制すべきか?

同性愛者を受け入れるべきか?

環境よりも経済力を伸ばすことが重要と感じるか?

など、17つの質問に答えると、自分がアメリカ国内においてどのくらいの保守 or リベラルに偏っているか、もしくは中立か、がわかる。

当然だが、保守派もリベラル派も共に「国をよくしたい」もしくは「社会をよくしたい」と考えている。それは『自分の生活のために』という前提があるかもしれないし、『多くの当事者のために』という考えかもしれない。

The New Synthesis in Moral Psychology

どちらにせよ、本人は「こうあるべき」と信じている。それは正義感であり、アイデンティティである。「間違っている」と指摘されると、人格を否定されたようにすら感じてしまうのだ。

保守派の考えも、リベラル派の考えも、均衡を保つためにはとても重要だ。どちらかに偏ることなく、両者の意見を見聞きすることは自身の考えをより柔軟にし、民主主義を考えることを、実は容易にしてくれる。

このテーマについては、上のグラフを作った Jonathan Haidt 著の、このをオススメしたい。

12月18日に放送される『フェイクバスターズ』では、アメリカ大統領選挙」「大阪住民投票」などから見えてきた、”選挙とフェイク”をめぐる問題について話したが、その収録でも話したことは、上記の各々偏った政治的価値観を、SNSのアルゴリズムが一気に拍車をかけてしまうことだ。

イイネを押した瞬間にSNSのアルゴリズムは『似たような記事』『似たような投稿』をオススメしてくる。それはまるで、多少偏っていた振り子に対して、少しずつ少しずつ、気づかないうちに着実に重りを乗せていくようなものである。アメリカのメディアは特に編集色にバリエーションがある。右と左のグラデーションの中にたくさんのメディア企業があるのだ。

https://www.journalism.org/2020/01/24/americans-are-divided-by-party-in-the-sources-they-turn-to-for-political-news/#partisan-divides-lead-to-one-sided-audiences-for-many-news-outlets

自分で注意してメディア企業を選ばないと価値観の偏りがさらに強くなり、SNSのアルゴリズムでさらに自分に似通った考えの人のみを見てしまう。人間の脳は複雑性を嫌い、肯定感を求めるため、それによって安心感を覚えてしまう。帰属意識もあるであろう。

自分が見るべきメディア企業を選ぶことすら難しいのに、アメリカの場合はトランプ大統領が複数のニュースメディアを「フェイク」と連呼するため、トランプ支持者はますます「どのメディアを見るべきか」わからなくなってしまう。

クィニピアック大学の調査によると、共和党支持者のなんと、82%がニュースメディアよりもトランプ氏を信頼している、というデータがある。

Quinnipiac University National Poll Finds

先日、高校の友達とのLINEで面白い意見をもらった。

トランプさんはテレビとかメディアにも最近あまり出してもらえてなくて、かわいそう。隠されてるみたいでますますメディアが信じられなくなる。

この考えでハッとした。USA TODAYは11月6日、大統領選のライブ配信を途中で打ち切った。それは、『証拠もなく、大統領選に不正があったなどの陰謀論を届けないため。真実を届けることが我々の仕事であるため』という、トランプ氏本人の口から発せられる『フェイクニュース』と戦う姿勢であった。私はこれをすごく勇敢な決断だと称賛していたが、これは一方的な検閲、とも言えるのかもしれない。

@USATODAY

日本のメディアも、昨今ではあまりトランプ氏の発言を大きく報道していないようだが、これによって一般の視聴者である私の友人は『メディアは情報を隠している』と感じたのだった。

『検閲』

これから民主主義を守っていくために、私たちはどうしたらいいだろうか?メディアを選ぶこと、アルゴリズムに支配されないこと、ひいては情報を自らで選択すること、これを一人一人がやっていけるのだろうか?教育環境も知識量も人によって本当に異なる中で、自由に情報を得て、もしくは自由に情報を「つくって」「流して」、誤情報とファクトの違いを一人一人が見極めていく能力を付けなければならないのだろうか?

そしてそれは可能なのだろうかー?

テクノロジーの進化とメディアの細分化が何をもたらすのか、歴史のみが教えてくれる。

ヒキタマリ / 疋田 万理
ヒキタマリ / 疋田 万理

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