スタートアップに「コミュニティ」は本当に必要か?
このブログは結論から言うと、ANRIの運営しているCIRCLEがめちゃ良かった。という話です。(CIRCLEとは、VC ANRIが運営する投資先限定のインキュベーション施設です)
また、このブログはスタートアップ向けのコワーキング・コミュニティを作りたい、という方や、現在スタートアップで働かれている方・起業家さんにオススメのブログです。
そもそもスタートアップって?
ここではシンプルに「資金調達をして、不確実性と闘いながらV字成長を追求する企業」とします。私は2019年に起業して、2年間通常の黒字スモールビジネスを経営し、2021年に初めての資金調達を実施しました。
CIRCLE入居のきっかけ
他の起業家さんがどのように入居に至ったのかわからないので、弊社の話しかできませんが、私は2022年9月頃にSlackでANRI弊社担当の中路さんにこんな質問をしたところから、六本木ヒルズに新しくシェアオフィスが開くことを知りました。
当時自社オフィスを構えていた自分の心境としては、「このままじゃダメだ、何か他社の刺激や、もっとスタートアップに囲まれないと」という気持ちがあり、「新しい何か」を求めていた状態で、この質問をしました。
そもそも孤独はあったのか
よく「スタートアップのCEOは孤独だ」と聞きます。たぶんまあまあ根本的には孤独だと思います。ただ、どちらかというと、私の場合は「孤独を作ろうとする自分」の引力の方が強かったように感じます。「成功するまでは誰とも会いたくない」「結果出てないから何も人に話せない」そして「飲み会に行く暇あったら事業やチームに向き合うべき」。
そんな感じで、どんどん飲み会に行かなくなり、毎日「オフィス↔️家」の繰り返しのみとなっていました。
メンバー以外と話さない事のデメリットが当時見えていなかった。
ただ当然ですが、社内メンバーもメンバーとばかり話しているので、
- つらい時に話せる人が社内しかいない
(気軽に話せる仲間ではあるが、気分転換にならない) - 自分がどれくらい仕事ができるのかわからない
(1on1で社内評価を受けても、その客観性・有効性がわからない) - スタートアップの働き方(ライフスタイル)の「普通」がわからない
(働きすぎなのか、普通なのか、生き方のバーンの基準がない)
1年クローズドな働き方をした結果、デメリットが明確になりました。
しかも、私の孤立引力?がメンバーにも影響してしまい、メンバーもクローズドな気持ちになっていたように感じます。(本当に良くなかった)
入居開始🎉(2023年2月)
そんなわけで無事に入居させていただくことができ、毎朝六本木ヒルズに向かう日々が始まりました。
「普通」に過ごした8ヶ月
12ヶ月間という入居期間リミットがあるのにも関わらず、なんと8ヶ月間もずっと、私はCIRCLEへの還元価値もなく、有効活用もできないままに過ごしていました。
簡単に言うと「普通のオフィスみたいに過ごしてた」という感じです。
会議室を借りたり、フォンブースを使ったり、CIRCLE内にあるカフェで安価なラテを日々楽しませてもらったり、そもそも六本木ヒルズなのでそれだけで最高な気持ちでした。
少しずつ自分のデスク周りの人に「こんにちは」「お疲れ様です」と言うことはあっても、会話をしたりすることはほとんどなく、結局自分のメンバーとしか話さない日々が継続していました。
これは本当に今後コミュニティ/シェアオフィスに入られる方に伝えたいのですが、
いち早く自分の悩み・課題を人に伝える
入居してから初めの8ヶ月は特に、「ここにいる人はみんな賢いし、すごい人たちだから、自分もできる人間に見えるようにしなきゃ」と見栄を張ってしまい、誰かに相談するどころか、自分の素がいかにバレないようにするか、みたいな気持ちでシールドを張っていました。
また、ディープtechやAI関連、SaaSやバイオなど、本当にさまざまな事業を運営するスタートアップが入っていたので、「自分の事業とは関係性が低いし、話しても相手に何もメリットないよな」「みんな忙しいし、話しかけるほど重要な議題ないな」と決めつけて、自分の殻に閉じこもっていたように感じます。
ここはWeWorkではない
ある日、アンリさんとCIRCLE入居中CEO達のmtgが設定されました。初めてANRI側のmtgルームに呼ばれ、ドキドキしていたところ、アンリさんから以下のような話をされました。
今日皆さんに集まってもらって、僕からお伝えしたいことは、CIRCLEはWeWorkではない、ということです。綺麗なオフィスに来て、一生懸命仕事して、というだけじゃなくて、他の起業家やメンバーと積極的に話してみてほしいです。
起業家は孤独になりやすい。もちろんそう。でも起業家は自分で会社を立ち上げてまで事業やってるから、メンタル強いやつが多い。でもその起業家についていってるメンバーはどうか?シード期でまだ会社が2~3人とかだったりするとメンバーも社外で話す人がいなかったりする。メンバーの孤独は語られないけど、すごく大事。
起業家や、メンバーに、健全な嫉妬をしながら、他のやつと仲間になってもらうことがCIRCLEの価値であり、僕たちが届けたいこと。
あとは、「腐らない」こと。シード期は特に不確実性が高く、みんなの事業がうまくいく、ということはほとんどない。そうすると一定数「諦める」人が出てくる。
みんな賢いから、自分のためだけだったらコンサルティングとかで稼いで、生きやすい人生を送ることができる。なかなか上手くいかない事業や投資家に断られまくる資金調達、メンバーが辞めてくとか、そんな苦しいことに直面しなくても、お金を稼いでいくことができる。
それでも世界を変えたいとか、誰かのためになりたいとか、そういう思いに僕たちは投資していて。そんな起業家達に、諦めてほしくない。腐ってほしくない。
苦しいときに起業家同士で話したり、成功していくやつを見て嫉妬したり、そんなコミュニティをCIRCLEで作りたい。だから無料で入居できる分、きちんと「健全な嫉妬」しあえる関係を築いて、卒業してほしいです。
このお話を聞いて以来、私の中で何かが一気にシフトして、今まで一度も参加していなかったCIRCLEカレー会に参加したり、他のスタートアップのメンバーに話しかけたり、ランチに行ったり、みんなで飲みに行ったり。
自分の事業には関係がなくても、相手の事業内容を聞いて採用のために人を紹介したり、こんな海外の事例あるよ、こんな知人がシナジーありそうなことやってるよ、と深く一人ひとりと関わるようになりました。
CIRCLEを卒業して1ヶ月経った今
「事業の相談があるから、飲み行きたい!」
と言える仲間が数人できました。
また、アンリさんの話していた「健全な嫉妬」に関しては、どんなに気軽に話せる人が増えてきても、オフィスの中で聞こえるバリュエーションの額だったり、MRRだったり、海外展開だったり、ピッチ資料だったり、事業進捗だったり、気が緩まることはなく、毎日「ひええ」と「おめでとう!」が続く日々でした。
CIRCLEで特にありがたかったこと
ここからは具体的に何がシード期のスタートアップにとって良かったのか、書き連ねていきたいと思います。ちなみに全て無料です。
先輩スタートアップからの勉強会
ANRIの投資先スタートアップのCEOさんが失敗例や試した仮説などを共有してくれる会は本当に勉強になり、しかもそのQ&Aを通して、コミュニティ内のメンバーの悩みを知ったりして、自社の悩みや他社の悩みを知り、仲を深める上でもとても有効だったのと、そもそも来てくれる方々もメディアで見かける方ばかりで、リアルで会うことで覇気を得られた感じがします。
弁護士・弁理士さんが時々オフィスにいる
スタートアップのことを熟知してくださっている専門家にオフィスで気軽に話せたのは最高でした。無料で、契約書の見直しや、商標の相談などができ、しかも時間が空いている時はカフェエリアでまったり(?)してくださっているので、普段「弁護士さんの1hrをスロットでお願いするほどではないか…」と迷っていたような案件も、コーヒーをもらうついでに相談できました。これ本当に良すぎた。
飲み会やランチ会の企画・費用・予約
月1くらいの頻度で飲み会があり、その企画や予約、そして費用までANRIが負担してくださいました。オフィスで気軽に参加できるランチカレー会や飲み会もあれば、外へ出て、めちゃ美味しい焼肉に連れて行ってもらえる会があったり、正直食べるの忘れてた日もコミュニティエリアに行ったらご飯があったり(すみません)、仕事で追われてる時はサクッと参加してデスクに戻ったり、この辺の柔軟さがあって本当に助かりました。飲み会へのコミット!!みたいなカレンダーブロックが結構心のハードル高くて、「行けたら行く」ができたのは本当に助かりました。
非公式のCIRCLE BAR
なんか英語表記にするとかっこいい感じになりますが、簡単に言うとオフィスで夜遅くまで残っているメンバーがちびちび飲める時間、という感じです。21時くらいまで残っていると、自然に発生しているようで、うちのメンバーもそこでちびちび飲んで、他のメンバーと話すことで「明日も頑張るか」って気晴らしになっていたと思います。(私自身は1回参加させていただいた)
運営メンバー(ANRI)の温かさ
CIRCLEに入居できる企業は、あくまでANRIから資金調達をしていて、株主と投資先、として緊張感がある関係なのですが、キャピタリストさん以外のANRIメンバーは特に「投資先スタートアップみんながどうしたらもっとパフォーマンス出せるか」「どうしたらみんなの会話が広がるか」を日々真剣に考えてくれています。利害のある関係とかではなく、人間としての付き合いを本当に尊重してくれます。あたたかいです。
また、自分担当以外のキャピタリストさんとも話す機会がたくさんあるのも貴重です。GPも含め、同じフロアで話しかけて相談したり、たわいない話ができ、そこからSlackのDMでピッチ資料をレビューしてもらったり、ファンド全体で応援してもらえているような気持ちになります。
最後に:スタートアップに必要なこと
スタートアップのコミュニティに属する体験は、受験に似ていました。
塾や学校で、受験期にみんな周りと距離感を保ちながら自分との戦いを続ける。周りには自分の状態を話したりしない。
少なくとも私はそんな学生でした。
みんな本当に各々の戦場で、各々の戦いをしているのに、なんとなくライバル意識を持っているような感覚。
CIRCLEに入った当初は私は受験期と同じ状態でした。ライバル意識は一応あるけど、みんな事業違うし、だから他の人と関わる必要も特にないし。みたいな。
でも、一度自分の悩みや考えていることを話したら、一緒になって考えてくれる人がいた。自分も相手の役に立つことができた。
みんな資金調達でたくさんの投資家と話したり、情報収集している状態で、自分のピッチを聞いて、「こうしたらどう?」とアドバイスをくれる。もっと構造を可視化できるベストなアイディアを考えてくれたりする。
これを体験して、「私孤独だったのか」と感じました。
元々持っていた課題も、解決されました。
- つらい時に話せる人が社内しかいない
→ 同じフロアに気軽に話せる他社の人がいる、「あ〜まじそういう時つらいよね、わかるw」って共感してくれる - メンバー自身がどれくらい仕事ができるのかわからない
→ 普段の会話から、他社のメンバーのスピードや思考を見れる - スタートアップの働き方(ライフスタイル)の「普通」がわからない
→ 周りのスタートアップの働き方を見て、「普通」を想定できるように
スタートアップは短距離走のようなマラソンであり、しかも正解のない暗闇をずっと走り続ける作業で、起業家(私)自身も、メンバーも実はすごく孤独な戦いをしていたんだなあと思いました。
ネットワーキングしまくるべき!とは、正直今も思わないのですが、あるコミュニティの中で価値観の近い人に出会ったら、まず自分の悩みや課題を共有する。これは、これからも実行していこうと思います。
普段から「自分は孤独だなあ」と思いながら仕事している人はあまりいないと思いますが、もっと周りに頼っていい、もっと戦う仲間を増やせるんだ、というメッセージをCIRCLEから勉強になりました。
まとめると、
・スタートアップは何かのコミュニティに所属するのがいい
・起業家だけでなく、メンバーの孤独も解消しよう
・悩みや課題はいち早く、選んだコミュニティメンバーに共有しよう
・全員と友達にならなくていい、数人の仲間を作れたらゴール
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私たちは今、スタートアップ向けのナレッジコミュニティ「ビークラ」を運営しています。(なぜ?というのは次回ブログで)
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ブログを最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
株式会社SPICY 代表 疋田万理
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